ソン・ランの響き
1980年代のサイゴンを舞台に、取り立て屋と大衆歌舞劇の花形役者の出会いを描く。
懐かしさを感じさせる映像と、その色合いの美しさはとてもロマンチック。
画面の構図には芸術的なセンスが感じられる。
ストーリーの流れは少し単調な気もするが、
無口な取り立て屋と華やかな舞台役者の二人のキャラクターの対比は素晴らしかった。
カイルオンと呼ばれるベトナムの大衆歌舞劇は、中国の京劇のようだ。
巡業の失敗などで借金を抱えながら舞台に上がる彼らの姿には切なさを感じる。
借金の回収をしているユン(リエン・ビン・ファット)は、
その凶暴性ゆえに人々から恐れられていた。
ある日彼は、大衆歌舞劇カイルオンの劇場に取り立てに行くが、
楽屋にいた団長に借金の返済を断られる。
ユンは舞台衣装にガソリンをまいて火をつけようとするが、
劇団の若手花形スターのリン・フン(アイザック)に止められる。
(シネマトゥデイ より)
ウォン・カーウァイ監督の『花様年華 』を思わせる、色っぽさのある色調はとても好みだった。
内容的には、京劇に似た歌舞劇という点で『さらばわが愛~覇王別姫~』まで濃ゆくはないが、
同性の友情以上の淡い感情が描かれている。
そこにいたるまでにかなりの時間を割いたからか、
不自然さはなくごく自然に二人の感情に共感できた。
嫌い合っていた二人が徐々に距離が近づきだす様子が丁寧に描かれているのだ。
そして主人公二人の感情をおもてに出さない表情は、小津作品のようだ。
セリフは多くはなく、雰囲気重視の作品といえばそうかもしれないが、
少し気取っていても私はそういう作品がやっぱり好きなんだと、この作品を観て思った。
孤独な二人が、自分にとって大切だと思える人に出会う。
それは異性であっても、同性であっても変わらない感情ではないだろうか。
ラストはハッピーエンドとは言えない。
しかし、映画全体の静けさと、アジア独特の香り漂うこの作品は、
記憶に残る素敵な作品だった。